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瞼を刺激する白光が意識を呼び覚ます。目覚めの証として開いた視界に飛び込んできたのは青空であった。街中であれば建物などが視界の端に映るはずの上空はまさに視界いっぱいに広げられ、その巨大さを見せつけてくる。目を細めさせる太陽は頂点からずれた形で点在しているが、その強さに違和感を覚えた。
先程までこの身を照らしていたあの太陽は、確か己の体温を上げ、汗を掻かせるほどの熱気を帯びてはいなかったか。それが今はどうだろう。体に降り注ぐ光は柔らかく、夏らしさを感じさせない。
しかも違和感はそれだけではない。背中に当たる固い感触は、自分の記憶に間違いが無ければついさっきまで存在していなかったはずの柔らかさがある。指先を動かせば擦れる感触が伝わり、疑問に思って顔を向けてみると、携帯電話を握り締めていた指を細長い葉の表面が撫でていた。驚いて思わず上体を起こす。
起き上がったのは、少年だった。
丸みを帯びた頬と顎の輪郭は、まだ成長途中である事を匂わせるものの、その者が男子である事を感じさせるのに十分な顔つきをしている。目尻は少し吊り上がっており、黒に染まったその瞳には、はつらつとした様を思わせるほどの輝きが見えた。元気の象徴とでも言うように黒髪は短く立てられている。スポーツが好きなのか、バスケットボールにアルファベットの単語が書かれた青いシャツの襟元には染みが見え、汗で肌に張り付いていた。少し裾が広がっている膝までの黒い短パンは、元気の良さを感じさせる少年に丁度良い。
目を大きく見開いて辺りを見回す少年──坂下 勇(さかした ゆう)は、自身が先ほどまでどこに居たのかを思い返す。そうして脳裏に描いた風景と眼前に広がる風景の違いに眉根を寄せた。
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