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記憶障害が生じたのでなければ、確か自分は体育館に居たはずではなかったか。日光を浴びていたとはいえ、屋内であった事に変わりはない。いやそもそも、緑溢れる草花と所々に立つ木々といった、草原に近い眼前の風景は彼の記憶には一つとして当てはまりはしないのだ。このような未知の場所に、少年の心には好奇心という芽が小さく出たが、疑問という大量の雨を受けてすぐに萎れた。
再び見上げる。やはり太陽の光は柔らかいままで、夏だとは思えない。いや、この場所自体が地元だとは考えられない。仮にこの場所が大きな公園だったとして、体育館からここまでどうやって来たというのか。疑問の雨が止む事は無く、やがて晴れ間の見えない思考に嫌気が差してきて、彼は空いている手に触れた帽子を手に取った。掴み上げて表面を軽くはたくと、それを被る。
これからどうすっかな……。
場所も特定出来なければ手元に有る物も少なくて心もとない。手立てが見つからず、口をへの字口に結んで小さな唸り声を上げる彼の手で携帯電話が震えだした。
突然の振動に驚き、サブディスプレイを覗き込む。数秒で止んだ携帯電話に表示された光の色は青で、メール着信を知らせていた。誰からのものかは分からないが、困っている現状を救う手立てである事を祈って開いた。
受信メール一覧の一番上に表示されるのはロングメール用のもの。そこに記載されている差出人の欄には先程と同じアドレスがある。『sekai-no-souzousyu(世界の創造主)』という大仰なアドレスに悪戯の類を思い浮かべるも、少ない情報しかない現状への説明がつかず、とりあえず頭の片隅に追いやる事とした。
アドレスの下に表示されている件名は上から二番目のメールと異なっている事に気付く。
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