プロローグ・b

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 すでに彼の部下達は知っている。彼が誰を憎み、そして何をしたいのか。分身とも呼べる彼らには、それが分かるのだ。  だから、どのような命令が下されようとも受け入れるつもりでいる。 「転生し、【光】の一部を奪え」  それがたとえ無謀かもしれぬ事であろうと。 「御意」  恭しく返す部下に、【闇】の王を名乗る彼──ファルフォスは、口元を笑みの形に吊り上げる。  立ち上がると、彼は「来い」と促した。  折れている右翼と健常な左翼の双黒を揺らしながら進む背中を、数歩遅れてついていく。  彼が座っていた玉座の後ろにある扉が開かれ、次の部屋に通される。  そこは玉座の間よりも遥かに広かった。  石畳の上に描かれた直径二メートル程の六芒星。その周りを二重の丸が囲み、間には何を基盤としているのか分からぬ文字が書き込まれている。数十メートル先に見えるのは、黒光りしている、石の壁に囲まれて立つ扉の姿。 「中央に立て」  命令に従い、魔法陣の中に移動する。  ファルフォスが手の平を上に向けるようにして両手を前に出す。  瞳の双黒が閉じられた、直後。手の平の上に小さな黒の球体が現れた。それはゆっくりと平べったく細長い物へと形を変えると、手の平に優しく降りていく。黒から黄色へと色が変わり、そして魔方陣に刻まれているのと同じような文字がそれに書き込まれる。  一メートル半の長さと十五センチ弱の幅を持つ布が完成したのを確かめるように、創りだした者は目を開けた。  中央で待つ部下のリグに、笑みを向ける。視界の中、子鬼の体が一つ瞬きをする間に震えたように見えたのは、錯覚だとは思えなかった。  布の一部を手に巻きつけ、残りを二重に描いた円の中に垂らす。低い声で呪となりし言葉を紡ぐ。 「開け(オープン)」  
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