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カチリ
無機質な音が小さく響き、同時に布に書き込まれていた文字が白光し、布の触れた部分から左右に文字と円と陣が同様に光り、広がっていく。
魔方陣が全ての文字と線を光らせた後、陣から一本の線が伸びるように生じ、扉へと繋がる。
開いていく扉。重く造られていたそれは、歯軋りよりも鈍く耳障りな音を発した。
白く発光していたはずの光は、扉の開いていく空間が大きくなるに従い、次第に黒味を帯びていく。やがて発光の元たるものから色のついた風が生じた。黒い風が下から唸りを上げて立ち上る。
竜巻のように巻き上がる風。その壁の向こうには小鬼の姿が隠れてしまっており、もはや見えない。
扉が完全に開かれる。闇しか見えぬその奥に向かって、竜巻が横に唸りを変えて吸い込まれるように行く。
姿が見えぬ小鬼の体は、扉の向こうの闇に無事に入っていったようだ。風が収まり、扉が開いた時とは逆に閉まっていく。開いた時と同じ音を立てながら。
全てが終わった後には、まるで何事も無かったかのような静けさだけが残った。魔方陣の上には何の姿も無く、それはファルフォスの行なった事が障害無く執り行われた事を示す。
手に巻いていた布を解いて、巻く場所を腰に変える。
新しく創った『鍵』の性能が良かったのか、それとも今自分が行なった儀式が成功したからなのか、ファルフォスの顔はどこか満足そうな笑みになっていた。
「では、他にも色々としなくてはな」
部下である小鬼に対しての言葉など一つもなく、彼は全く異なる言葉を呟くと、踵を返して部屋に入ってきた時にくぐった扉をもう一度開けた。
彼の姿が玉座の間に戻り、扉は再び閉められる。
誰の姿も無き部屋は、再び使われる時を待つように、閉じられた扉の音を静かに反響させていた。
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