45人が本棚に入れています
本棚に追加
うだるような暑さを感じさせる外から避難した場所は、想像以上に快適だった。いや、そもそも自分の目的はそこにあったのだからこれで良かったのだろう。自宅から自転車を走らせて十数分程度の距離にある図書館の涼しさが、彼に安堵の吐息を零させた。
持ってきた少々大きめの鞄から以前借りた数冊の本を取り出し、受付に返却を希望する。滞る事無く返却は完了し、彼は次なる目的の場所へと足を向けた。図書館を出るつもりは毛頭なく、彼はそのまま自習や読書の為のテーブルと椅子が並べられたコーナーへと進む。やはり夏だから、だろうか。暑さを逃れる為に、読書をしたい為に、課題を終わらせたい為に、受験勉強の為に、老若男女の人々がそこに居た。しかしながらその人数は図書館が開館して間もない時間であったのもあって少ない。
運良く誰も座っていない一台の長方形テーブルを発見する。誰とも関わるつもりの無い彼は都合のいい場所を見つけた事に口角を小さく吊り上げると、そのテーブルに近づいた。
椅子の側に立った彼は先にテーブルの上に鞄を置いた。座る前に、腰に下げている小さなポーチに手をやって、それが空でない事を確認する。それからそのポーチを片手で軽く持ち上げて体の横に来るようにずらし、そしてようやく椅子に腰掛けた。
テーブルに置かれた鞄を開けるとチャック独特の音がしたが、五月蝿いと思うほどの事ではないと考えた彼は気にしない事にする。中から取り出したのはいくつかの冊子と大学ノート。どちらにも「物理」「数学」などといった単語が見受けられるそれは、課題の問題集。「数学IA」の冊子を使用する事に決めると不要な物をしまい、代わりに筆箱と下敷きを取り出した。
問題集の指定されているらしいページと大学ノートを開き、シャーペンを持ったところで音が聞こえた。といっても、図書館に入る直前でマナーモードに切り替えていたから振動音であるのだが。音は鞄の中から聞こえるようで、出鼻をくじかれたように舌打ちすると、彼は仕方なく鞄に手を入れてケータイを取り出したのだった。
最初のコメントを投稿しよう!