プロローグ・c

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 * * * * *  小さな溜息を知らずについていた。  彼女は一つの墓の前にしゃがみこんだまま、花が捧げられた墓を見つめ続けている。お盆はまだ一週間は先のこの時期に、たった一人でそこに居た。ふくよかに結われたポニーテールを生温い風に揺らしながら憂いを帯びた視線が墓に注がれるも、人ではないどころか口すらも無いそれが彼女に語りかける事は無い。いや、それは人ではないけれども、かつて人であったものをしまう場所である。だからといってそれが何一つ答える事はない事に変わりはないのだけれども。 「……おばあちゃん」  彼女が今度は声を零す。しかし、返答は無い。それを分かっているのだろう。彼女はしばらく無言を貫いていた。暑さで肌を伝う汗。顔を流れるそれを拭う事もしないまま、言葉を選ぶように視線をさまよわせると、やがて、ほぅ……と、息を吐いた。安堵でも何もなく、ただ溜息をついた。そんな感じだった。 「私は……どうすればいいのかな……」  迷う理由を語らぬゆえに、誰も答えようの無い言葉が宙にぶら下がる。  彼女は答えが欲しかった。今自分を取り巻く環境を打破する為にどうすれば良いのか分からなくて。  亡き祖母を発端にして始まった環境が彼女には煩わしい。信じていたものが一気に崩れ落ち、何にすがれば良いのか分からなくなったのだ。  彼女は脳裏に祖母を浮かべた。皺が刻まれた頬肉は微笑みで持ち上げられている。垂れ下がった目元にも皺が寄り、メラニンによる茶色の斑点が目元よりやや下に見えた。  懐かしきその笑顔を思い返して、彼女はもう一度溜息を吐いた。答えの浮かばない頭に嫌気が差して、気分転換をしようと考える。膝に手をついて立ち上がり、伸びをしたところで足の付け根近くの異変に気がついた。ポケットに入れていたケータイから軽快な歌が流れている。ダウンロードした流行りの夏歌をメール着信音に設定していたのを思い出した。設定を昨日変えたばかりだからまだ慣れないと苦笑する。音を止めるべく、彼女はポケットに手を伸ばした。  
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