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嘉香は17歳のとき交通事故に巻き込まれた。
原因は飲酒運転の信号無視。それを避けようとした車がハンドルをきった先に、嘉香はいた。
俺はそのとき少し離れた歩道を歩いていた。
ドンッという鈍い音に振り返った瞬間、ずっと鼓膜を支配していた雨音が消えた。
嘉香がさしていたはずの黄色とオレンジ色の水たま模様の傘が宙をまっていた。視界いっぱいにそれがうつって、その後ろを舞う影に一瞬反応が遅れた。
それが、嘉香だった。
……グシャッ
暗かったはずなのに、嘉香の真っ赤な血ははっきり見えた。モノが、壊れる音だった。
「嘉……香…?」
嘉香の血が俺のズボンの裾を黒く染める。嘉香の目は虚ろに宙を見ていた。
「嘉香」
足が重くて動かない。
「嘉香」
足ががっくりとおれて冷たい雨に膝が濡れた。
「嘉香」
雨が強く頬をうつ。
「嘉香」
血がつくのも構わずに俺はその体を抱き上げた。
「嘉香」
冷たかった。
雨とかそんなんじゃなくて。
ただ冷たかった。
体が。
心が。
芯まで冷えきっていた。
「…嘉香……嘉香…嘉香…嘉香嘉香嘉香嘉香嘉香嘉香嘉香嘉香嘉香嘉香嘉香嘉香嘉香嘉香ぁぁぁあぁああああああ!!!!!!!」
壊れた
壊れた
嘉香が
俺が
壊れた
世界が
嘉香の目が俺を見た。
その目は俺を責めていた。
『なんで私なの?』
『なんで私なの?』
『なんで…
私だけなの?』
俺は、
嘉香の瞳から逃げた。
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