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20分もしないうちに救急車がきた。誰が電話で呼んだのかはわからない。俺はその間ずっと、嘉香の体を抱き締めていた。
雨でどんどん体温が奪われるのが怖かった。このまま冷たくなって死んじゃうんじゃないかと思った。
周りの音はほとんど俺の中に入ってこなかった。
突然右腕を捕まれた。
「離っ…!!」
目の前には担架らしきものがあって、俺からひきはがされた嘉香の体がそれに横たえられた。
「……せ…返せよ!!」
わけが
わからなくなってた。
なんとなく、このまま離れたら嘉香ともう一生会えなくなるような気がした。嘉香が、死んでしまうような気がした。
俺は必死に嘉香に手を伸ばした。けどそれは救急隊員の人たちに阻まれた。
嘉香の体は白い車に吸い込まれていく。ガチャンと担架が固定される音が聞こえた。
嘉香……
足の力が抜けて地面に膝をつく。俺をおさえていた救急隊員の人が肩に手をおいて俺に聞いた。
「あなたは彼女のご家族ですか?」
家族…
俺は嘉香の家族…じゃない……
声はかすれて出なかった。俺は首を力なく横にふった。
「ではここに彼女のご家族はいらっしゃいますか?」
俺はまた首をふる。
「あなたは彼女のお知り合いですね。病院までご同行願います」
救急隊員の人は事務的な口調で言うと俺の腕をひいて立たせた。
病院まで…同行?
嘉香と一緒に病院へ行くとわかったのは救急車に乗せられたからだった。さっきまで抱えていた嘉香の体がそこにある。けどその体にはたくさんの管が繋がれていて、それは俺の知ってる嘉香じゃなかった。
点滴が落ちていくのを見ながら俺は病院までの道のりをぼーっと過ごした。最初は事故にあった時の状況や行き先の病院などについて救急隊員の人が話しかけてきたけど、俺がほとんど無反応だったからそれもなくなった。
嘉香の手は時々思い出したようにぴくりと動いた。
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