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「ままー!!」
「おかえり梨子。ぱぱとの散歩は楽しかった?」
嘉香は俺が梨子と散歩に行ったのだと思っているのだろう。そんなことを言った。
「健太君とね、公園で遊んだの」
梨子もべつに気にしない。
置いていかれようが、忘れられていようが、梨子は絶対に何も言わないのだ。
「良かったね~健太君って新しいお友達?」
「ううん。前にも遊んだことあるよ」
嘉香は直ぐに忘れる。梨子は先週も健太君と遊んでいるし、その時は嘉香も公園にいたはずだ。
「梨子、お砂場道具かたしてきな」
「はぁ~い」
両腕をめいっぱい伸ばして飛行機の真似をしながら、梨子は玄関までぱたぱたと走って行った。
「あっくん仕事は?もう行ってきたの?」
今朝見送ってくれたことも忘れてる。
「帰ってきてから散歩に行ったんだよ」
「……そうだったっけ?」
俺は家でできる仕事をするため作家になった。嘉香を家で一人にするわけにはいかないし、今日みたいに梨子をおいてくることもあるから。けど出来上がった原稿を届けに行かなきゃいけない日ももちろんある。それが今日だった。担当の人に取りにきてもらってもいいのだが、嘉香に会わせることを考えるとそれは気がすすまなかった。
「まま~」
手を洗ってきた梨子が嘉香に突進する。嘉香は受けきれず、二人してソファに倒れこんだ。
「梨子~危ないでしょ」
「えへへへ」
じゃれあう二人を見て、俺は幸せだと思った。
嘉香には障害があって、それでもこうして子供にも恵まれ。笑顔があふれる家庭以上の幸せが、他にあるだろうか?
「…?」
俺はテーブル上に見慣れぬ封筒を見つけた。拾いあげると嘉香が「ああそれ」と言う。
「今日きたんだよ。あっくんが帰ってくるの待ってたんだ」
俺の帰りを待ってた…?
裏を見ると、そこには懐かしい名前が書かれていた。よく見ると宛名は俺と嘉香になっていて、差出人は高校の時のクラスメイトだ。
「ね、早く開けて」
嘉香に催促されるままに封を破る。中からでてきた一枚の紙には『同窓会のお知らせ』の文字が書かれていた。
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