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「どうそうかい♪どうそうかい♪」
梨子が足下でクルクルと踊り跳ねる。まだ電話もしていないというのに気の早い子だ。
「梨子」
右手で抱き上げると梨子はきゃっきゃと笑い声をあげた。肩の上に座って足をぷらぷらとさせる。
「落ちるなよ」
「梨子は落ちないもーん」
コール音が数回鳴ったところで神崎の『はい』という声が聞こえた。
「…神崎か?」
『そうですけど、どちら様でしょうか』
事務的な口調。もしかしたら仕事中だったかもしれない。
「周防だけど」
『周防って…篤郎?』
「ああ」
『おー、久しぶりだな』
「手紙見て電話したんだ。同窓会の話したくて」
『………悪い、ちょっと待っててくれ』
神崎の声が遠ざかっていく。やっぱり仕事中だったみたいだ。
「梨子もどうそうかい行けるー?」
梨子が落ちそうになりながら顔をのぞきこんでくる。
「もうちょっと待ってな」
電話を耳と肩にはさんで梨子を下ろす。未練も見せずに梨子は嘉香の膝の上に飛び乗った。
「「どうそうかい♪どうそうかい♪」」
二人が声を揃えて言いながらリズム良く手を叩く。きっと梨子が行けないと知ったら嘉香も行くのを諦めるだろう。俺自身も乗り気じゃないから構わないけど。
『篤郎?悪いな待たせて』
通話口から神崎の声が聞こえてきて俺は電話を右手にもちかえた。
「いや、大丈夫だ」
『たしか同窓会の話だったな。どう?来れそう?』
「それが……娘がだだこねてるんだよ」
『娘?梨子ちゃん?』
「ああ。梨子も行くって言って聞かないんだ」
神崎が黙ったから俺はやっぱり無理かと安心した。これで断わることができる。
しかし神崎が言ったのは俺が予想もしなかった言葉だった。
『いいじゃないか。連れて来いよ』
「……は?」
『時間そんな遅くないし平気だろ?それにお前が来なかったら瀬戸さんも来ないって言いそうだし』
「そりゃあ嘉香を一人で行かせるのは…」
『だったら決まりだな。よし、連れてこい』
「ちょっ…」
『藍住には俺から伝えとくから。三人で来るって』
「ま…」
『じゃ、8日な』
………プツリ。
一方的に切られた電話をしばらく見つめた俺は、神崎の顔を思い出して心の中で溜め息をついた。
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