中学時代

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「ねえ」 後ろから学ランの裾を捕まれて俺はしかたなく振り返った。くるっとした目が下から見上げてくる。 「あ?」 「周防君だよね。私瀬戸嘉香。後ろの席なんだよろしくね」 少し赤茶のまじった髪が印象的だった。 「…ああ」 俺のそっけない態度に、彼女はにっこりと笑顔を返してきた。 …変なやつ。       中学の入学式。背の高い俺は周りより目立つ存在だった。けれど声をかけてくるような人間はいなかった。   目つきは悪く、色素の薄い金髪に複数のピアス。   "不良" まさにそんな感じだ。自分から声をかけようなんていうやつがいないのはわかっていた。 けど彼女は、瀬戸嘉香は違った。       「嘉香、ちょっと」 「何?」 友達らしき女が瀬戸の肩をつかんで離れていく。小さな声で「あんた何声かけてんのよ」と言っているのが聞こえた。瀬戸は「え~だって…」と唇を尖らせている。ちらりとこっちを伺い見たけど、俺は気付かないふりをして教室を出て行った。           「おはよう周防君」 声をかけられた俺が驚いたのは言うまでもない。振り返ると後ろの席で瀬戸が笑顔をうかべていた。 「…………………おはよう」 小学生だった時も挨拶なんてしたことがない。けれど無視するのも酷いと思い抵抗を感じながらもめんどくさそうにそう言うと、瀬戸はまた嬉しそうに笑った。 「嘉香、おはよう」 「おはよう」 昨日の女だ。そいつがじろりと睨んできたから、俺は前を向いて耳にイヤホンをはめた。 音量を最大まであげると周りの音は何も聞こえなくなった。
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