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「そんな言い方すんなよ。仕方ないだろうが」
裕二はその男を睨みながら冷たく言い返した。
「い、いや、裕二さん、僕はマネージャーとして東イミのことを考えて…」
どうやらこの男はマネージャーだったらしい。裕二に強く言われるとさっきのまでの態度とは打って変わり、目を泳がせている。気が弱いのか強いのか分からない。
「俺たちのこと考えるなら、なおのことファンのコが倒れてるの放っとくわけにはいかんでしょーよ」
ベースの伍見だ。いかにもマイペースそうな笑みを浮かべている。
「その通りですよ!それに、女の子にそんな言い方ひどいです!」
女の味方なのかマネージャーが気に入らないのか、女性スタッフが続く。
「何なら僕らで、家まで送るなりタクシー捕まえるなりしますよ?裕二さん」
何人かのスタッフが顔を見合わせて、裕二に言った。
「あーー、うん。そうだな」
裕二は何やら煮え切らない返答をする。
「い、いえ!本当にもう元気ですから!自分で帰れますので!」
さすがにこれ以上迷惑はかけられないと、ソファーから立ち上がり、バタバタと準備をする。
「君さぁ、もう元気なの?」
ふと、伍見が口を開いた。
「はいっ!本当に元気ですから!」
身支度をしながら慌てて返事をする。
ーー とにかく早く出なければ。
自分の様な女が居ていい場所ではない。そう思えてならなかった。夢を投げ捨て、悲劇のヒロイン気取ってる様な馬鹿女なのだ、私は。
「ならさ、打ち上げおいでよ!これも何かの縁だろうし」
周りがシーンとした。
「え……打ち上げ?え!?えっと…」
突拍子のない提案に何と言えばいいか分からない。本来ならば一言返事で受けたい誘いではあるが、軽々しく行きますなどと言えるはずもない。
「賛成!」
「いいんじゃない?」
「ファンのコがいるなんて、新鮮ですねーー!」
土井や四川、女性スタッフが口々に言った。自然と皆の視線が裕二に集中すると、それに気づいた裕二は慌てて口を開いた。
「えっ……いやいや、俺が反対な訳ないだろ!」
「じゃ~決まり。よかったよかった!みんなでパーッとやりましょ!」
ベースの伍見がまとめた。
「あの!わ…わたしは…!」
あまりの展開についていけない。先程の「居ていい場所ではない」という思いも払拭できず、何と返答して良いかわからない。
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