幻惑

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都内某所のクラブ。今夜は東京イミテーションの打ち上げで貸切にしてある様だ。 「では!東京イミテーションツアーの無事終了と、成功を祝して、乾杯!」 事務所の社長の挨拶で皆が乾杯する。 「お疲れで~す!」 「乾杯!」 「いやぁ、今回のツアーは…」 なんだかんだと何十人もの人が集まっており、それぞれの歓談に入る。 美月は隅っこのカウンターで、静かに飲んでいた。一人ではあったが、ただ見ているだけで充分楽しめた。 挨拶まわりをするメンバーを見ながら、ライブの情景を思い出す。 ドラム土井のダイナミックでありつつ繊細でよく通る音。土台を支える、安心できるリズム。 ギター四川の確かなギターソロ。裕二のギターと素敵に絡み合う。 ベース伍見のうねる様なライン。本来のベースラインを超えて、メロディックである確実な音作り。 そして、ボーカル千葉 裕二。ロックで重い音の上に時に太く通る声で、時に色気を感じる程の妖艶さをのせていく。 長めの黒髪を分けて、細身のシャツと、黒いパンツで着飾らない衣装が、驚く程の輝きを放つ。 ……なんて、しったかぶりのかっこつけた批評を1人で妄想している所に、ふと声をかけられた。 「ねぇ、君」 その声に美月は我に返った。
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