幻惑

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ふと、恥ずかしくて反らしていた目線をあげてみると、裕二は真剣な眼差しでこちらを見ていた。 え……? こちらの視線に気がつくと「本当、ありがとね」と言ってから、サッと手を離した。 : : : : それからはしばらく裕二や伍見と他愛のない話をしていたが、打ち上げもそろそろ終わる様だ。 ーー 夢の様な時間が終わる。 腕にはめた時計の秒針が憎くて仕方ない。忘れていた現実に引き戻されていく。 仕事に行き、酒を呑み、愛想を振り撒き、金を使わせ、金をもらい、家に返り、飯を食らい、寝る。 何の意味もない、自堕落な生活のループ。 そう思うとさっきまでの元気が一気にひいていった。手にとった酒を勢いよく流し込む。 「大丈夫?」 気がつくと伍見もマネージャーもどこかへ行ってしまい、裕二と2人でテーブルを囲んでいた。裕二は美月の様子が変わり気にかけてくれた様だった。 「あっ…あはは、大丈夫ですよ。ちょっと名残惜しくて」 とっさに作り笑いをした。こんなみっともない思い、吐き捨てられる筈もない。 「……」 裕二は暫く間を開けてから、グラスをテーブルに置き、そのまま身を乗り出してこちらを覗きこんできた。 「……下手な作り笑い」 「え…」 顔を間近にされ、言葉がでてこない。 「ちゃんと笑えてねーよ?全然」 胸が苦しくなった。何もかも見抜かれてしまいそうな、真っ直ぐで揺るがない瞳で見つめられたから。美月はとっさに目を反らし、黙り込んでしまう。 すると今度は、手首を勢いよく掴まれた。 「何でそんな目ぇすんの、気になって仕方ない」 そう言ってまた、真剣な眼差しでこちらを見つめる。 「えっ……」 更に動揺し頭はからっぽで、何と答えるべきか分からない。 『…アハハハ~』 『♪~』 「…」 「…」 周りの話声や音楽だけが、二人の間に流れていく。ただただ、握られた腕の脈打つ音が身体に響く。
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