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薄く朝靄のかかった草原に軽快な音が聞こえてくる。
靄の中から現れたのは一台の馬車。栗毛の二頭の馬が必死に駆けている。
その中に二人はいた。
「ねぇ、アルくん!マムルク学園ってどんなところかなぁ!」
「お前、その質問五回目な」
満面の笑みでお菓子を抱えているシャム。
それとは対照的に口を尖らせ、頬杖をついて窓から朝靄のかかった草原を眺めるアル。
「いい加減に機嫌直そうよ~。
フォルっちの家に行って色々準備しなきゃいけないから、この時間じゃないと間に合わないって」
そう言いながら、抱えていたお菓子の袋をアルに差し出す。
「分かっているが、やっと太陽が顔出してきたんだぞ。どう考えても早すぎだろ」
ブツブツと文句を言いながらも、差し出されたお菓子はしっかりと食べている。
「まぁ、僕達の仕事は主に夜だからね~。
朝が苦手なのも納得できるけど……これからは、毎朝早起きしなきゃいけないんだよ~」
シャムは自分の服を指差す。
いつもの赤いコートではなく、胸に鷹の刺繍の入った紺色のブレザーに赤いネクタイをして、下は黒の長ズボンをはいている。
どうやら、学園の制服らしい。
「だからより腹が立つんだ。あとどれぐらいで到着できるか?」
シャムと同じ服装のアルは鬱陶しそうにネクタイを少し下に引っ張り、前で馬車の運転をしているダークに訪ねる。
「あと数時間程です。急ぎましょうか?」
「いや、構わない。安全運転で頼む」
ダークはアルの言葉に頷くと再び前を向いて手綱を握る。
「お菓子でも食べて気楽にいこうよ」
「……まぁ、仕方がないな」
どこから取り出したのか、別のお菓子の袋を取り出すとアルに差し出す。
アルも苦笑いを浮かべながら、それを断ることなく受け取る。
そうやって時間は過ぎていった。
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