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日は沈み、月明かりのみが辺りを薄暗く照らす、小さく狭い路地。
両側に立ち並ぶ建物の灯りは消え、人の気配は全く感じられない。
小雨が、冷たい夜風と合い重なって更なる肌寒さを感じさせた。
そんな中……誰もいないはずの路地でうごめく、人よりも巨大な“それ”。
「ガッガガッガァァァ!」
不気味な鳴き声が静かな夜道に響き渡る。
びっしりと生えた体毛、月明かりに妖しく照らされる鋭い牙に爪、青白い人間の顔に黒い羽。
夢でも見ているのだろうかと疑いたくなるほど、目の前の“それ”は現実離れをした恐ろしさを覚えさせた。
「へぇ……羽ありの悪魔か。結構、人間喰ってきたクチだろ」
“それ”が見上げる先……民家の屋根に悠然と立ち尽くす人影。
血を連想させるような鮮やかな赤のフード付きのコートに全身を包み、左肩には黒い薔薇のエンブレムが付いている。
左手にだけ黒い革の手袋をはめており、声から若い男であることだけは推測出来た。
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