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「んで……ソフィアさん」
「ソフィでよろしいてすよ」
馬車を置いて二人は大通りを歩いている。人で賑わい、日の光と笑顔で輝いていた。
素性を隠すため、黒のコートを脱ぎ、白のシャツに赤いミニスカートといったラフな格好になったソフィは少し早足でアルの少し前を歩く。
「ソフィ、何でそんなに楽しそうなんだ?」
ソフィはアルにそうたずねられても、しとやかに口を抑えて小さく笑い続けている。
「いえ、失礼しました。噂通りの方だなぁと思いまして」
「噂?」
笑うソフィに怪訝な表情でたずねる。アルの背中では、相変わらずシャムが幸せそうな表情で眠っていた。
「容姿端麗、十歳で一級魔術過程を修了した天才。
ぶっきらぼうですが、優しく、誰とでも隔てなく付き合うお方だと」
笑顔でそう言って、居心地の悪そうな顔をするアルを覗き込む。
「誰がそんな噂を……。まぁ、何も特別な事はしてないし、権力とかが面倒だからそうなるだけだ」
早口でそう言い終えると、少し歩調を速める。
「ふふっ、そう言うことにしておきますね」
それについていくように、黒いコートを靡かせながら可愛らしく小走りをする。
「しっかし、人通りが多いな」
周囲の人の多さに圧倒されて辺りを見回す。あまり人目に付くような仕事ではないというのも一因なのかも知れない。
「まぁ、そこを曲がればすぐです。急ぎましょう」
必殺の笑顔で言い、嫌そうな表情のアルをなだめる。
シャムは背中でひたすらに眠ったまま。その睡眠欲はすでに感服の域に達していた。
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