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「ガガガッギァァァ!」
心の底から震え上がりそうな、甲高い声で夜空に吠える。
まるで……喜んでいるかのように。
「ん?お前喋れないのか。背中の羽は見掛け倒しのようだな」
そんな不気味な様子にはまったく怯えず、拍子抜けしたかのように言うと、屋根から勢い良く飛び降りてくる。
激しい水しぶきが着地点から周囲に巻き上がる。
その勢いで外れたフードからは癖の無い短めな黒髪、蒼い瞳の優男が顔を覗かせていた。
数メートルは落ちたはすだが、当の本人は何てこと無いと言った様子で腰の刀を抜く。
そこからは、黒い鞘や柄からは想像もつかないほど白く輝く刀身が顔を覗かせた。
「……今、楽にしてやる」
そうして、左手の手袋をゆっくりと取り外す。
その手は、赤黒く染まり、血管は浮き出て、人間のそれとは思えない。
「雷刃一式……」
白い刃を左手でなぞる。すると、白い刀身がなぞった部分から深い黒色へと染まっていく。
そして、小さな静電気音が刀を包む。
「名残髪(ナゴリガミ)」
横にながれた刀からは、三日月状の黒い斬撃が飛び出していく。
一瞬で空気を切り裂き、悪魔へとぶつかる。すると、激しい光と熱が辺りに一気に広がっていく。
「…………!」
悪魔は叫びたくても、喉が焼けているのか天を仰ぐ事しか出来ない。
「安らかに……眠れ」
男が指を鳴らすと、一層の光が辺りを包んだ。
その後にはやけ焦げた石造りの道があるだけだった。
男はそこに寄ると、白に戻った刀をしまい地面に片膝を付く。
「……アーメン」
そうして再びフードを被ると、小雨の闇に消えていった。
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