第一節

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「───…」 私は、歌うのを止めた。 理由があるわけでもなく、ただ何となく。 「綺麗な歌声だな」 トーンの低い声に、私は振り返る。 自分のそれと同じ制服が目に映った。 何て背の高い人。 見上げると、ベリーショートの黒髪がよく似合うボーイッシュな少女。 「…ありがとう。私、歌が好きだから…そう言ってもらえると、嬉しいわ」 「そうか。確かに歌はいいな」 そう言って少女は、私の隣に腰掛ける。 この場所…寮の裏庭には花壇があって、それを眺めるのに丁度いいベンチがある。 「この時期は、沢山の花が咲くわね」 私は呟いた。 目の前の花壇には、チューリップなどの春の花が咲き誇っている。 「…そういえば、チューリップの花言葉にも色々あったな」 赤は『愛の告白』 黄色は『望みなき恋』 紫は『失われた恋』 白は『永遠の愛』 など…。 私は……チューリップなら、白が好き。
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