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†
部屋に戻ると、サヤが携帯で電話をしていた。
「やだも~、速人ったらぁ♪」
速人…あいつか。
サヤの恋人で、結構…いや、かなり女ったらしだ。
まぁ、このバカップルの場合は互いに人のこと言えた立場じゃないが。
ナンパ、逆ナンは当たり前の光景だ。
慣れないというか、気に入らないというか。
僕は嫌いだ。
それなのに、何故かこいつらは許せるんだよな。
夢中になって電話をしているサヤの隣を通り過ぎ、僕はベランダに出た。
心地良い風が頬を撫でる。
そういえば、海野光というあの少女が歌っていた時も、透明な風が吹き抜けた。
…───それにしても、あの少女…何か懐かしい感覚があったような…。
「“海野光”………あんた、一体…?」
「優も感じたの?」
いつの間に電話を終えていたのか、サヤが僕の隣に居た。
「あの光って子、違和感があるっていうか…」
「違和感とは何か違うな。逆に、空いた所にコトリとはまるような感じか」
「だね」
サヤも短く同意し、珍しく考え込む。
考えても分かる筈がないということも分かっていたのに。
「!」
遠くに、何かが見えた。
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