第一節

18/21
前へ
/50ページ
次へ
† 部屋に戻ると、サヤが携帯で電話をしていた。 「やだも~、速人ったらぁ♪」 速人…あいつか。 サヤの恋人で、結構…いや、かなり女ったらしだ。 まぁ、このバカップルの場合は互いに人のこと言えた立場じゃないが。 ナンパ、逆ナンは当たり前の光景だ。 慣れないというか、気に入らないというか。 僕は嫌いだ。 それなのに、何故かこいつらは許せるんだよな。 夢中になって電話をしているサヤの隣を通り過ぎ、僕はベランダに出た。 心地良い風が頬を撫でる。 そういえば、海野光というあの少女が歌っていた時も、透明な風が吹き抜けた。 …───それにしても、あの少女…何か懐かしい感覚があったような…。 「“海野光”………あんた、一体…?」 「優も感じたの?」 いつの間に電話を終えていたのか、サヤが僕の隣に居た。 「あの光って子、違和感があるっていうか…」 「違和感とは何か違うな。逆に、空いた所にコトリとはまるような感じか」 「だね」 サヤも短く同意し、珍しく考え込む。 考えても分かる筈がないということも分かっていたのに。 「!」 遠くに、何かが見えた。
/50ページ

最初のコメントを投稿しよう!

1人が本棚に入れています
本棚に追加