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ただ一人、小林さんだけは私に近付いて冷静に言った。
「大丈夫か?傷が…」
「ええ。骨も神経もよけてるから、問題はないわ」
私はハンカチをいい加減に傷口に巻ながら言った。
「そうか」
笑顔こそ見られないが、どこか安心したように小林さんは言った。
その時、
「せめて神経はイってると思ったんだが…惜しいな」
男性のものと思われる、小林さんのそれよりトーンの低い声が響いた。
大きな弓を持った男が、壁を抜けて現れた。
…“抜けて”?
ちょっと待ってよ。
この男、霊的な存在じゃない。
それなのに、壁を抜けた?
まるで、そんなものは存在しなかったとでも言うように。
何事もなくそこに立っている。
「覚えてないか…自己紹介くらいはしといてやる。俺は三能者第三位のクレイヴァだ」
“クレイヴァ”………。
聞いたことがある?
覚えてないって何?
「チッ…流石のシャルティアもまだ使い物にならねぇか」
「シャル───?」
クレイヴァと名乗る男の言葉に、山川さんが反応した。
「中途半端な記憶か?それとも感覚だけか?」
クレイヴァが顔をしかめる。
その表情を見て何故か、痛みが走った。
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