第一節

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ただ一人、小林さんだけは私に近付いて冷静に言った。 「大丈夫か?傷が…」 「ええ。骨も神経もよけてるから、問題はないわ」 私はハンカチをいい加減に傷口に巻ながら言った。 「そうか」 笑顔こそ見られないが、どこか安心したように小林さんは言った。 その時、 「せめて神経はイってると思ったんだが…惜しいな」 男性のものと思われる、小林さんのそれよりトーンの低い声が響いた。 大きな弓を持った男が、壁を抜けて現れた。 …“抜けて”? ちょっと待ってよ。 この男、霊的な存在じゃない。 それなのに、壁を抜けた? まるで、そんなものは存在しなかったとでも言うように。 何事もなくそこに立っている。 「覚えてないか…自己紹介くらいはしといてやる。俺は三能者第三位のクレイヴァだ」 “クレイヴァ”………。 聞いたことがある? 覚えてないって何? 「チッ…流石のシャルティアもまだ使い物にならねぇか」 「シャル───?」 クレイヴァと名乗る男の言葉に、山川さんが反応した。 「中途半端な記憶か?それとも感覚だけか?」 クレイヴァが顔をしかめる。 その表情を見て何故か、痛みが走った。
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