1人が本棚に入れています
本棚に追加
†
『美味しいね』
…あの人と同じ感想。
あの人と同じ戸惑った言い方。
頬を紅潮させて、必死に別の言葉を探しながら、見つからなかった時の言い方。
思わず笑みがもれた。
何だかむずかゆい気持ち。
…懐かしい感覚。
食べ終わって、海野さんと一緒に片付けている今でも、脳裏に残っている感覚。
……逢いたい。
「………英次…」
ガシャンッ!
「っ…ごめんっ」
突然の音に驚いて振り返ると、海野さんが割れた皿を慌てて片付けていた。
「…海野さん?」
私があの人の名前を呟いた瞬間のことだった。
おかしい。
何かおかしい。
もしかして海野さんは、英次を知っているの?
「海野さ…」
「後…片付けておくから、先に行ってていいよ」
誤魔化すように言った海野さんを怪訝に見て、私はキッチンから出た。
世の中そんなに広くない。
海野さんが英次を知っていたところで、何もおかしいことはない。
だけど…
今の反応は、ちょっと過剰じゃない?
疑問を持ったまま、私は鞄を手に取った。
これから、居心地の悪い場所へ行く。
たった一人で…。
最初のコメントを投稿しよう!