白ウサギの心が死んだ。《前編》

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やみくもに走り回っても仕方ないと考え、とにかく使用人でも探そうと辺りを見回した瞬間、声を掛けられた。 三月、ウサギ。 自分をウサギと認めない彼は正直嫌いだ。いや、僕はアリス以外総ての者が嫌いで、正直頼りたくなんてないが今はそんな事を言ってる場合ではない。 「アリスは……彼女は何処に居るんです!?」 三月ウサギに駆け寄って詰め寄れば、彼は目を見開き、直ぐに視線を逸らした。 ……なんだ、何が、あったというのだ? 「…そこで待ってろ」 一言だけ告げると、彼は屋敷の中に入って行ってしまった。 僕はというと、ただその場に立ち尽くし彼を待つ。 下手に動くのは危険だ。此処は一応敵の領地のど真ん中。抗争になったら、幾らなんでも分が悪い。 それに、あの三月ウサギの様子からして間違いなくアリスは此処に居るのだ。それならば、釈であろうと素直に待つのが無難だ。 (愛しい、彼女の為ならば、) どれくらい経ったのだろう。 そう長い時間ではなかった筈だ。時間帯は、此処に来た時と同じ昼のままだったから。 僕に待っていろと言い置いて去って行った三月ウサギが次に現れた時には、彼の上司で有りこの地の領土主である、帽子屋ことブラッド=デュプレと一緒だった。 「――……まさか、こんなにも速く気付くとは…思わなかったな。ホワイト卿」 薔薇の着いた間違っても趣味が良いとは言えない帽子に、何がしたいのか全く解らない服装。 出で立ちは普段の帽子屋のそれなのに、何故か違和感を感じて仕方ない。 何が違うのかは、よく解らないが。 「―――アリスは、何処に居るんですか。僕は彼女に逢いに来たんです」 「……アリス…か。良いだろう……着いて来たまえ」 「………………」 それだけ言うと帽子屋は踵を返して屋敷に向かって歩き出した。 ……やけに、素直過ぎる。 けれど、罠という感じではない。 とにかくアリスに逢わない事には何も始まらないのだ。 そう思案した僕は、帽子屋達に着いて歩き出した。 NEXT>>
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