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白ウサギの心が死んだ。《前編》
狂愛、その後の彼ら
~Side 白ウサギ 前編~
身体の中から、何かが抜け落ちるような喪失感を感じました。
――――ガチャンッ!
「!」
「!?」
僕の手から滑り落ちたティーカップは、重力に逆らわず真っ白なテーブルクロスの上に落ちた。
白いテーブルクロスはカップの中に入っていた紅茶に汚され、陛下のお気に入りのティーカップは淵が僅かに欠ける。
「ホワイト…貴様、わらわの気に入りのティーカップを…!」
「あはははは、ペーターさんはおっちょこちょいだなぁ!幾らお茶会がつまらないからって、カップに罪はないだろー?」
「エース…貴様ら纏めて首を跳ねてやるわ!!」
「えーっ、陛下、八つ当たりはみっともないですよ?」
周りの喧騒等、気にも止めずただ呆然と落ちたカップを眺めていた。
……この、喪失感は、一体、
「………ペーターさん?」
「ホワイト、貴様一体どうし……」
流石に、何も反応しない僕を不審に思ったのか二人が訝しげに僕に視線を向ける。
けど僕はそれすら無視して、ただ喪失感の正体を探ろうと気を張り詰めた。
そこで行き着いた答えは、
「―――……アリス…?」
ほぼ無意識に口から零れ落ちた、名前。
愛しく、自分にとって特別な意味を孕むその名前を紡いだ瞬間、自分の『命』である時計が、カチリと音を立てた。
「アリス?アリスがどうしたと…」
「あ、ちょっとペーターさん!?」
次の瞬間、僕は走り出して居た。
二人が後ろで何か叫んでいたとけど、そんな事どうでも良い!
「アリス…アリス、アリス……アリス…!」
胸のざわめきが消えない。
嫌な予感がする。
速く、速くアリスの元へ――……!
「………は、はぁ、っ…」
走って走って、僕はいつの間にか帽子屋屋敷の前に立っていた。
ただアリスの事だけを考えて走っていたら此処についたのだ。
辺りを見回しても、誰もいない。
普通は門番が居る筈だというのに(話によると、どうやら門番達にはサボり癖があるらしいが。そんな事別にどうでも良い)
誰もいないし、静かなのに、何かがおかしい。
使用人の一人、メイド一人さえも見当たらない。
何より、その静けさが息を潜めるかのような妙な静けさなのだ。
間違いなく、『何か』があったのだろう。
門が空いてるので、そのまま中に入る。
「―――……テメェ、何でこんな所に…」
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