第四夜・白いドレスの君

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営業を終えた俺は、オンボロ車で線路沿いの抜け道を飛ばして帰る。 今日は何しろ寒かった。 凍えそうな体を引きずって営業した成果が出て、なんとか契約を手にしたから、気分は悪くない。 しかし、契約が決まれば、その仕事の段取りをとらなければならないから、どうしても帰宅時間が遅くなる。 車内のダッシュボードのデジタル時計は2:23を表示していた。 右手には単線の鉄道が走り、左手にはかろうじて民家の明かりが視認できるくらいの田園風景が広がっている。 抜け道はしばらく進むと、鉄道を逸れて、やがて完全に、『いわゆる農道』になる。 こんな農道に生意気にも信号がついている交差点があるが、その信号が無ければ、街灯すら無い真っ暗な道になるだろう。 やがて、俺のオンボロ車は、カーブした単線鉄道の踏切にさしかかった。 辺りには家も無く、踏切に付いている安っぽい蛍光灯の明かりだけが、冷たい単線のレールと、必要以上に鉄道の危険性を訴えかける、あの黄色と黒の縞模様をライトアップしている。 カン…カン…カン…カンカン…カン…カン…カンカン…カン…カン…カンカン………… 踏切に近づくと、あの独特の音が鳴り響いて、2つの真っ赤な目が交互に光り始めた。 ……こんな時間に電車が通るとは思わなかった。 しばらくすると、一両だけの貨物列車が俺の待つ踏切を通り過ぎた。 虎模様の遮断機が上がり、俺は小さな踏切を渡る途中……。 …………!? 長い鍔の白い帽子を目深にかぶった、白い半袖の洋服(ワンピース)を着た女性とすれ違った。 さらさらの長い黒髪は、強い北風に煽られるでもなく、自然に揺れて、窓を閉め切った車内にも、その甘い髪の香りが漂ってくるような感じがした。 俺は、思わず振り返りたくなり、踏切を渡りきってから窓を開けた。 遠くに聞こえる、電車の音と、冷たい北風が車内の暖房をかき消す。 窓から顔を出して振り返った俺が見たものは、木枯らしの吹く無人の踏切だけだった。 白いワンピースの姿はどこにも見当たらない。 って、ちょっと待て……真冬に半袖のワンピース!? どうやら、俺は疲れてるらしい。 窓を閉めて、ギアを入れれ、後方を確認する。 ……!? 車内のルームミラーに白い半袖の服を着た女性が映っていた。 俺は思わず深いため息を吐く。 「……あんた、半袖で寒くないの?」
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