第一夜・鏡の中の彼女

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真夏の暑い日が続いたある日、俺たちは仕事を終えて、ドライブに行く事にした。 あんな事があるとわかっていたら、あの日あんな場所には行かなかっただろう。 俺たちとは、新人の俺と会社の主任、それから店の店長の三人だ。 俺たちは、仕事の帰りに三人で飯を食べてから、夕涼みを兼ねて、群馬県の赤城の近くにある草○ダムに向かう事にした。 ○木ダムは小さな集落を通り、人気の少ない道を抜けた先にある。 今は取り壊されてしまったかもしれないが、俺たちが行った当時は、まだ木で出来た古い吊り橋が掛かっていたんだ。 マツダのルーチェが細く暗いカーブをまた一つ曲がって進んで行く。 まだ、12時前だというのに、このあたりの民家には電気も点いていない。 「この先の吊り橋は自殺の名所なんだよ」 車を運転している主任は長髪で、メガネを掛けた世に言う知性的なイケメンである。 淡々と語る彼の口調は、恐怖感などまるでないように聞こえた。 しかし、俺の体はさっきのカーブの右端にあった木に反応していた。 右手の手首から、肩までが寒気に粟立つ。 ……いる。 「舟(ふね)、この辺、ヤバいべや」 店長が主任に話し掛けた。舟と言うのは主任の愛称である。 「え?何かあったんすか?」 主任は何も感じないらしい。 「俺、霊感とかないですからね」 ケタケタと笑っている。 「E(俺の事)は霊感あるんか?」 主任に聞かれたが、俺は曖昧に答えた。 「あると言えばあるし、無いと言えばないですね。あんまり良くわかりません」 「なんだそりゃ?」 店長が笑いながら、突っ込みにもならない返答を返してくる。 本当はわからないどころじゃない。 別にお化けや幽霊が怖い訳じゃないが、決して気持ちのいいモノじゃない。 でも俺には、その気持ちの良くないモノが見えたり感じたりする事が日常茶飯事だった。 現に俺の腕はさっきから、何か不自然なマイナスのエネルギーを感じて粟立ったままだ。 意識を集中したら、また見たくないモノを見ちまう。 俺は主任に話をして自分の意識を散らす事にした。 「吊り橋って古いモノなんですか?」 「古いな。俺達が生まれるよりも前なんじゃないか?古い吊り橋の上に新しい吊り橋が出来てるしな」 「え?じゃあ橋が同じところに2つ架かってるんですか?」
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