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思わず声に出てしまった。
帽子の鍔で顔が隠れて表情がわからない(あれ)は、頷きもせず黙ってリアシートに座ったままだ。
……だんまりか……。
仕方なく、俺はそのまま車を走らせる。
(あれ)と会話が成立する訳もなく、俺は体重の無い女を乗せたまま、家路を急いだ。
少し俯いたまま、こちらを見ようともしない(あれ)は、なかなか車から降りようとしない。
いくら綺麗だったとしても、(あれ)じゃあ彼女にもならない。
まあ、以前のおっさんよりはマシだけどな……。
それに踏切で乗り込んできた(あれ)だから、以前のように、顔が潰れてるかも知れない。
そんなものを見たら、これから食べる夕飯の味が落ちてしまう。
でも、しばらくしたら、(元)女は車内からいなくなった。
すっと消えるように。
相変わらず、あいつらは何の為に俺の前に現れるのかわからない。
生きてる美人なら大歓迎なんだけどな。
白いワンピースの君……。
冬には冬の装いで出てきて下さい。
顔が見えなかったから分からないけど、美人が風邪ひいて鼻水垂らしてたら格好悪いっしょ?
一応心配だから、言っとくけど……。
それから、もし、あんたが美人だって言うのなら、またもし、来世なんてものが、万が一あったら、是非、今度は生身の時に会って、俺の嫁になって下さい。
じゃあね~、風邪ひくなよ~。
第四夜・終わり
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