第六夜・心の窓

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その夜、仕事に疲れた俺達は、深夜、何処へともなくドライブに出かけた。 男ふたりで、しかも相手は現役のお坊さんだ。 お互い、仕事に精を出すタイプだから妙に気が合う。 もちろん、仕事の愚痴を言って傷を舐め合うようなつまらない事はしない。 「次は何の商売が当たるかなぁ……そろそろ新しい事考えて行かないと、俺達も、いい歳になっちまうぜ?」 坊主頭のYはお気に入りの黒いガンメタのアルファロメオの運転席でつぶやいた。 「そうだな……俺もいろいろ考えてるけど、これって言うのが、まだ浮かんでこないな」 俺はそっけなく答えた。 実際、しばらく休みを取っていないから、なかなかアイデアも浮かんで来ない。 結構な勢いで走って行くうちに、辺りは山道になっていた。 俺は情けない事に、方向音痴というやつで、一度や二度通っただけでは、道を覚えない。 いつもの習慣で、この日もYにお任せコースのドライブだった。 辺りには街灯もなく、ただくねくねとした山道だけが続けている。 「この道って、○久保ダムの道?」 「違うよ」 俺の質問に短く答えるところをみると、奴も疲れているようだ。 「あ~マジで面白れぇ事ねぇのかなあ……」 これは、俺達の中で最近良く出てくる台詞だった。 仕事人間には、なかなか自分の時間が持てない。 お互いに彼女でもいれば、みんなで遊びにも行けるが、仕事ばかりしていると、なかなか出会いもない。 結果、いい歳した男ふたりで悲しくも寂しい夜のドライブとなるのである。 「やっぱ、アルファはいいよな~思い通りに曲がってくれるもんな~」 俺は車の事は良くわからない。 というか、興味がない。 どちらかと言えば、機械に向かって話し掛けるより、人と話す方が何百倍も楽しい。 Yは運転する事は車と会話する事なんだよ、エンジンとかボディーの軋みとか、タイヤの限界を感じながら走るのが気持ちいい、というが、意味は分かってもそれが楽しいとは思えない。 人それぞれというやつだ。 もちろんその気持ちを否定するつもりもサラサラ無い。 現に俺がこうして文字の遊びを楽しんでいる気持ちがYには分かっていないだろう。 お互いが、お互いの趣味や習慣を認め合う事が出来て初めて親友と呼べるのだろうから。
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