第七夜・肩合わせ

5/6
前へ
/38ページ
次へ
……いた。 (あれ)は子供の姿をしていた。 表裏二面になっているハンガー掛けの間に座り込んでこっちを見上げている。 白い小さなポロシャツに半ズボン、(あれ)のクセにキチンと靴下まで履いてやがる。 しかし、彼の目は異常だった。 元々大きな目を必要以上に、それこそ、まん丸になるまで見開いて、歯を見せて笑っている。 ……キミ……顔こわいぞ……「リ○グ」の貞○じゃないんだから。 俺は、ハンガーを元に戻してゆっくりとカウンターに向かった。 ……見なきゃ良かった。 ちょっとあの笑顔は頭に残りそうだ。 あの笑顔は、そう、まるで生きたまま、肉食獣にはらわたを喰われながら笑っているような……そんな壮絶なものだった。 チラッと礼服コーナーを見て、また後悔する。 うっ!?……立ってこっちを見てやがる。 まん丸い目で……。 その表情はさっきと全く変わらない痛みや苦しみを耐え忍ぶような笑顔だった。 キミ……その笑顔無理があるぞ……。 恵比寿さまの笑顔研究したほうがいいぞ? どうせ笑うんなら、百万ドルの笑顔の方が気持ちいいじゃん? 悪い事は言わないからさ……。 店長には子供の姿は見えないらしく、彼は脅えながらも、やはりゲームを続けていた。 あんた……相変わらず役に立たない上司です。 まあ、俺がやった方が間違いなく仕事が早いから、いいけどね……。 でもなんでこの人、これで店長になれたんだろ? 年功序列は偉大だな……。 この時俺は、この会社を辞める事をうっすらと考え始めていた。 相変わらず、立ったままこっちを見てる(あれ)を無視したまま、俺は仕事をつづけた。 頼むから、じっと見つめるのは止めてくれ……なんだか落ち着かないじゃん? なんなら、店長の横でゲーム見てる方が楽しいだろ? 結局(あれ)は、棚卸しの間中、顔に笑顔を張り付けたまま、そこに居続け、愛すべき役立たずの上司は(あれ)に気づく事もなくゲームをし続けていた。 ああ、棚卸し疲れた。 ちなみに、(あれ)はそれからも何度か現れた。 と言っても姿は見せないけど、カタカタ音だけがいつまでも残っていた。 ついでに言うと、あれは音だけで、肩合わせを実際にしてないから、ハンガーは動かない事が後日判明しました。
/38ページ

最初のコメントを投稿しよう!

68人が本棚に入れています
本棚に追加