第一夜・鏡の中の彼女

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橋の上からは、鬱蒼(うっそう)と茂った木々の葉が、電気の光の届く範囲内で視認できるだけだ。 その下から、川のせせらぎが清らかな音楽を奏でている。 「舟、ここはヤバいわ」 店長がポツリと言った。 「せっかくだから真ん中くらいまでは行きましょうよ」 全く何も感じていない主任が言う。 俺たちは、覗き込むのを止めて、新しい橋の上を歩き出した。 橋の中央付近には、ベンチが置いてあり、昼間ゆっくりと橋からの景色を眺める事が出来るようになっていた。 今はよく見えないが、確かに昼間の景色は良いのかも知れない。 中央まで行くと、主任はタバコに火を付けた。 俺もポケットからタバコを出しながら、さっきの(あれ)が気になって、もう一度下を覗き込んでみた。 さっき、橋の終わり付近にいた(あれ)は、俺たちの真下に来ていた。 しかも、暗闇の中にも判る程、俺の方を凝視している! ……やばい! 一瞬、(それ)が白い歯を見せて笑ったような気がした。 さすがに背筋が寒くなり、体中の皮膚が粟立った。 すると、さっきまでユラユラ徘徊していた青白い霞みたいな光が俺たちの足元に集まりだした。 足の回りを狂ったように回りだす。 今までの経験上、コイツらは別に何も出来ないはずだった。 ただ、足首から足の付け根までを冷たく柔らかい布で撫で回されているような感覚があるだけだ。 「舟、俺気持ち悪くなってきた。帰るべ?」 どこまで見えているのか、感じているのか分からないが、店長は青白い顔をしてそう言った。 さすがに俺も、怖くはないが、気持ちよい事では無かったから、その意見には賛成だった。 「そうですね。なんかヤバい感じですしね」 俺はすっとぼけて、言った。 「俺には全然わかんないなぁ……じゃ、帰りますか?」 俺と店長はやや早歩きで橋を戻り始めた。 呪いなんてものは、全く信じてもいないが、人間の恐怖心と依存心はその人の行動をおかしなものにする事もある。 あまりに強い恐怖心は、自分に起こった不幸や災難を(あれ)や呪いのせいにする。 中には自己催眠に陥って自殺する者だっているくらいだ。 心理学をちょっとでもかじっていれば、呪いなんてものがいかに曖昧なものかって事がわかる。 それでも、俺はもう一度下の橋にいる(あれ)を見る気にはなれなかった。
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