第二夜・真昼の珍事

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これは、俺がまだ高校生だった頃に見た現象。 家から学校までの道のりは9.7キロもあり、自転車で通うにも、男の足で30分以上かかる距離だ。 その先、学校から3キロほど山に向かって行くと、山々に囲まれた比較的大きな湖がある。 その湖の手前に、つるんでいる仲間の家がある。 季節は冬。 部活が早く終わり、学校帰りにヤツの家に寄ることにした。 ヤツの家の手前には、ちょっと大きめな川が流れていて、その川のさらに手前には小さな、ひなびた神社がある。 俺はブリジストンのドロップハンドルの自転車を景色のいい眺めを見ながらのんびり走らせていた。 その時、神社を通り過ぎると、社(やしろ)を囲む杉林の中に目に入ったモノがある。 赤いジャンパーとジーンズ姿のオヤジが、比較的太い杉の幹(みき)から半分だけ顔を覗かせていたのである。 しかも、黄色くなった歯を覗かせて、ニヤニヤと笑いながら俺を見ているのだ。 薄気味悪いオヤジだった。 なにが悲しくて男の俺を見てニヤついているんだか…… 当たり前の事だが、俺は変態オヤジを無視して、そのまま仲間の家に向かった。 仲間の家に着いた時には、俺の頭の記憶から変態オヤジの事はキレイに消えていた。 ……それから二週間後。 部活が終わって、いつも通りに家に帰る途中の事だった。 俺の家の近所には、養鶏場がある。 コレがなかなかどうして、かぐわしい空気を作り出してくれるのだが、それは置いておいて、その養鶏場の前の道を挟んだ反対側に、雑木林に囲まれた一軒家が建っている。 帰り道にはいつもそこを通るんだが、そこを通り抜ける瞬間だった。 道沿いの太い木の影にあのオヤジがいた。 二週間前と同じ、赤いジャンパーとジーンズ姿で体の右半分だけ出して、やっぱりこっちをみて黄色い歯を見せながら、まん丸に目を開いて、ニヤニヤ笑っていやがる。 ……やばい、また見ちまった……あれは変態オヤジではなく、(あれ)なのか。 最初に赤ジャンの(あれ)を見たあの神社から、二度目の遭遇現場までは、約10キロの距離がある。 俺のストーカーになった(あれ)は、二週間も俺にくっついていたらしい。 無様にも俺はその事に全く気がつかなかった。
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