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未だに木造で出来た校舎では、廊下を照らすライトの光は外の薄暗さに負け、まるで夜に虫にたかられている街灯のようにも見える。
湿気で臭う木の嫌な臭いや軋み、それを聞いているだけでも気が滅入りそうなものだが、湯村に胸には小さな光が灯っていた。
瑠偉と話したというだけにも関わらず、頭の中は喜びにいっぱいになっていた。
「おい!栄治!」
急に背中から名を呼ばれたかと思うと肩を掴まれる。
振り向いて見ると、そこには同じクラスの村田宏介がいる。
肩を上下に揺らし、それでいて制服が濡れているというみすぼらしさだった。
「宏介、どうした?」
「お前!何で濡れてないんだよ?!」
疲れたように眉間にシワを寄せる村田。
しかも、村田のその質問は湯村の胸に灯った火を強くし、少しだけ胸を高鳴らせてしまった。
「そ、それは……」
「まさか!お前、雨が降るのを予知してたとか?!」
「そう!それだ」
俺は瑠偉と相合傘して来たなんてことは言えず、おどけて誤魔化してみせる。
それを知ってか知らずか村田もノッてきてくれ、その場はやり過ごすことは出来たのだった。
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