340人が本棚に入れています
本棚に追加
村田と二人で教室に向かう。
その間に交わした言葉は瑠偉と話した言葉よりも軽く、心に残らなかった。
それは、村田の声が湯村の耳に届く前に心の中に響く瑠偉の声にかき消されてしまっていたのも原因だった。
それを湯村は気づくことはなく、そのまま教室に足を踏み入れる。
廊下よりも断然明るい教室。
そこに斑にいる生徒達。
自分の席で読書をする生徒もいれば、友達と戯れている生徒もいる。
外は雨でも、このクラスまでその雫が届くことはなく、晴れた日と変わらない明るさがあった。
湯村は教室に足を踏み入れた瞬間から、全体に視線を這わせる。
そして、それが視界に入ると朝一緒にいたことを思い出す。
机に向かい、時々隣りに置いた参考書に目を移す姿は、何でもないことなのかもしれないが湯村には特別のことのように感じてしまっていた。
「栄治!俺らも遊ぼうぜ!」
「あっ、俺今日腹の調子悪いからさ……」
「んだよ!じゃぁ、安静にしてろよ!」
村田はそう言うと自分の席まで走って行き、荷物を無造作に投げ捨てると他の友達に絡みに行く。
湯村はそれを見届けると机に鞄を乗せ、教科書を取りに席を立ち上がった。
瑠偉を意識し過ぎないように教室を後にする。
そして、教科書や荷物を置くロッカーでいる物を出していると背中越しに足音が聞こえ出した。
やがて、その足音が止まり、自然と視線がそちらに向く。
その先には瑠偉の姿があって、湯村を見て目を丸くしたかと思うとすぐに微笑みかけてくれた。
最初のコメントを投稿しよう!