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 授業中、不意に窓に視線をやればそこには無数の水滴がつき、風景を歪ませる。 先生のつまらない話や黒板をなぞるチョークの音は耳障りで仕方なかった。 やはり、人工的な明かりでは雨の湿気に負け気持ちが滅入る。 腕を置く机も妙な滑りを作り、皮膚にくっついてしまう。 湯村はそれでも自分の腕を枕に眠りに付こうとした。 しかし、たまたま向けた顔の先に瑠偉がいて、その細い線をした体つきを見ると胸が高鳴り出す。 三年経っても、黒板を見るその目も表情も変わっていない。 湯村は知らず知らずのうちに、瑠偉をその目の中に入れていたのだ。 そして、ゆっくりまぶたを下ろし眠りにつく。 規則正しい雨の音を聞きながら。
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