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昼休みを過ぎ、他の授業が足早に終わっていく。
そして、清掃が終わると帰りのロングホームルームがある。
それも気がつかないうちに終わってしまい、湯村にとっては楽しみなことが訪れそうだった。
「なぁ!栄治!三井に謝ったほうがいいかな?!」
挨拶が終わると同時に村田が湯村に掴みかかる。
強く前後に揺さぶられ、それが止まったときには目が回ってしまいそうだった。
「謝るなら早めにしたほうがいいぞ。三井、用事があるらしいから」
「マジで?!」
村田は大きな声で叫ぶと瑠偉に向かって駆けて行く。
そして、顔の前で手を合わせると何度も頭を下げる。
お調子者で少し柄の悪い村田だが、それ以上に人を思いやる気持ちの持ち主だった。
瑠偉が若干引き気味になりつつ謝り続ける村田。
不意に視線を湯村に向ける瑠偉。
湯村に苦笑いをし、止めてくれと言わんばかりの目をしていた。
湯村はそれを感じるとすかさず村田に歩み寄り、その肩を優しく叩いた。
「三井がもう謝らなくていいってさ」
「でも!三井はそんなこと一言も!」
村田は肩に置かれる手を振りはらい、再び頭を下げる。
瑠偉に視線を送ると瑠偉は笑ってみせる。
湯村がうなずきかければ、瑠偉もうなずいた。
「村田、三井は許してくれてるよ。なっ?三井?」
「うん、村田君。気にし過ぎだよ。私、大丈夫だから」
それを聞いた瞬間、村田は勢いよく顔を上げ、三井の手を握る。
大きく上下させると一歩下がり、再び頭を下げて逃げるように教室から出て行ってしまった。
「……待ってるから」
「あっ!ごめんね、すぐ終わるから!」
瑠偉はそう言うと村田のように教室を飛び出して行った。
その後ろ姿を見送ると、教室には湯村一人しかいなかった。
今だに止まない雨。
湯村は窓に手の平を当てるとそれを感じ、そして感謝をした。
いつもは煙たがっていた雨に感謝をする。
瑠偉と話すきっかけをくれた雨に心からの感謝を。
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