340人が本棚に入れています
本棚に追加
朝日に照らされ、薄汚れた教会も少しは明るく見える。
規律正しく並べられた横長の椅子達にも光が当たり、惚けた中にも自分の本来の姿に戻りつつあった。
そんな椅子に腰を掛ける二人。
湯村の横には瑠偉がいて、気持ちよさそうに寝息を立てていた。
埃の舞う教会の中に響く、瑠偉の寝歌。
湯村はそれを聞きながら、窓から漏れる光を求めた。
乱反射する光でも、湯村にとって貴重で大切だった。
窓を突き破り手を伸ばす木々も巻き付く蔓も二人をとり囲うように見える。
それを感じると、湯村は隣りにいる瑠偉を抱き寄せ、胸に隠した。
視線を四方八方に巡らせ、身を縮めた。
神経を尖らす湯村。
そうとも知らない瑠偉。
湯村は小さくため息をつくと瑠偉の顔を見ようと髪を掻き分けた。
ウェーブがかった髪。
その瞳を隠すまぶたも鼻も眉毛も唇も全て愛しくて。
しかし、愛しいと想えば想うほど苦しくて湯村がこれからしなければならないことを考えるだけで逃げ出したくなった。
その白い頬に触れるとぬくもりが指先から足先まで染み渡る。
出来れば、もう少し一日でも長く瑠偉といたかった。
ただ、瑠偉との約束を果たすためには今日という日でなければならない。
湯村は瑠偉の手を握り、自分の頬にあてる。
瑠偉の手を握る手は震え、瞳からは涙が零れた。
不意に湯村の涙が瑠偉の手にあたり、形に添って流れていく。
すると、目を覚ます瑠偉。
湯村を見ると少しだけ見つめ、再び瞳を閉じてしまった。
湯村は瑠偉が起きてしまわぬよう、体を動かし長椅子に寝せる。
自分の両手を胸に束ね、まるでこれから起こることを感じとったようにも見えるその寝相。
最初のコメントを投稿しよう!