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貧しく見えるよう窶した土色の麻衣を丸めて捨てながら、左手をしならせてバサリと絹の衣を広げる。
何気ないその動作によって風の中に躍るこの衣服も、下界の民の金銭感覚では到底理解しきれぬ額のものなのだろう。
だが、彼はそんなことは気に留めてすらいない様子だ。
きっと『くれ』と言われれば『はいどーぞ』と、いとも簡単に譲渡してしまうに違いない。
それだけ、彼は物にも王位にも執着心をもたない。少なくとも、周りにはそう見えるよう振る舞ってきた。
しばらく風に踊りながら一個の生き物のように自ら皺を伸ばしていく絹衣の様子を眺めていた瞬耀だったが、ふと気づいた。
何者かの視線を感じる。
先ほどからずっと、誰かが自分を見つめているのだ。
これがサボり主を探しに来た自分の部下の視線であったなら彼はいつもの明るい誤魔化し笑いを浮かべて、数秒後には子供のようにしな垂れて臣下の小言を聞くことになるのだろう。
……だが、今日は違った。
「何をしているのです、兄上」
凛と響いたその声に、瞬耀の表情が一瞬険しくなった。
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