前章-四神之序

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聞き覚えのあるこの声の主は、瞬耀の三つ年下の妹である玄武帝・麟 揉遁。肩甲骨あたりまで伸ばした黒髪はいつものようにすっきりと一つに束ねており、今日も熱心に打ち込んでいる武芸稽古の帰りなのだろうか、服装も飾り気のない少年のようななりをしている。 痩せていて、洒落っ気がなくて、態度も口調も腕っ節の強さもまるで男のような妹だ。だがしかし、彼女もそれなりの格好をさせれば見違えるように美しい女性になることを、瞬耀は知っている。 そもそも、顔は整っているのだ。化粧をする素振りすら見られないが、それを差し引いても申し分ない。 そして世の男達の口にのぼるのは、なんといっても、雪のように白い肌に華奢な体躯。 そして、済んだ深い藍色の瞳。 ……わが妹ながら美しい女性だと瞬耀は思う。 きっと、彼女が他の皇女達や或いは後宮の姫君のように美しい装束に身を包み、美しい椅子の上でただにっこりと座っていることが出来る女性だったならば、その評価はもっと上がったことだろう。 ――……美しい、とは思うのだが……。  その感想と、兄妹が上手くやっていけるかどうかとは、全く以て別の問題だ。
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