前章-四神之序

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揉遁の冷たい視線を軽く受け流すように、瞬耀は声をたてて笑い出す。 「……あっははは、何とでも言えばいいよ僕は翠馨や印虎や揉遁と違ってまじめじゃないからさ」 軽蔑の眼差しにもかすり傷一つ負わされていないことを表明する朗らな笑い声が揉遁の背を追いかける。 だがその明るさとは裏腹に、瞬耀の目は陰湿な光を帯びて遠ざかる妹の背を睨み付けていた。 (……放蕩息子で結構。お前らに俺の考えなんてわかるわけがない) じっとりと、憎悪と疑念を含んで湿った心の声は、誰にも聞こえることはない。 二十一歳にもなる彼が王宮を抜け出して城下を徘徊したりするのは……それ相応の考えがあるから。 明るく気楽に笑いかけ道化を演じながら、彼の心は復讐と野心に燃ゆる火を絶やすことがなかった。  
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