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踵を返した揉遁だったが、途中で言い忘れを思い出したかのようにハタと足を止めた。
「そうだ、兄上……聞きましたか。“姫神”が降臨すると……」
揉遁が振り向くと、「当然だ」と言うように瞬耀は頷く。
「千年に一度の“姫神”が、ね……それで?」
「兄上達には負けたくありませんし……負ける気もしません。しかし私に姫神は必要ない」
揉遁の凛とした声が自信を含んだ言い方で放たれる。
そのまま彼女は、兄の返答を待たずに槍を携えて訓練所の方へ颯爽と消えていった。
(……私は負けられない、負けるつもりもない。
決して誰にも……姫神にさえも負けず屈さず……望みを手に入れてみせる)
いつも気丈な印象を受けるその顔だが、今の彼女の目からは特に、そんな強い決意の光が見てとれる。
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