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「……」
深い藍色の絨毯の敷かれた宮廷内の廊下の壁に背中をぴったりとつけて立っている男が一人。
会議の終わった部屋からは本日の職務から開放された官吏達やまた仕事に自分の部署に戻っていく官吏達が彼の佇む廊下へと流れ出ている。
彼……皇族麟家第三皇子、青龍帝・麟印虎はその姿勢のまま、少し上目で忙しそうに行き交う人間達を眺めた。
長い前髪からうっすらと覗く金色の瞳は何処と無く蛇を思わせる。
「……」
無口なこの男の視線に、若い新入りの官吏は薄気味悪さすら覚えていた。
しかし「相手は一国の主……のうちの一人だぞ」と、先輩官吏に視線で合図され前を通り過ぎていく。
もっとも、本人は気にしていない……というか、気付いてすらいないのだが。
相変わらず沢山の人々の行き交う賑やかな宮廷……それは昔から自分を閉じ込める檻でしかなかった。
一見賑やかなこの世界は、実は何処よりも殺伐とした静けさと孤独を孕んでいる。
それはここに“生き残っている”全ての人間も感じていることなのだろう。
ただ、印虎が他と違うのは……その気持ちを解消する術を知らぬということ。いや、それともそれに慣らされ過ぎて彼は既に認識できなくなっているのだろうか。
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