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「……?」
通り過ぎていく人影の一つに、印虎は軽く首をかしげた。
首の傾げ方も、どこか人形のような動作である。
視線の先にいるのは、中庭の方へ向かう、長い白髪の男。
(――……兄上……)
一つ年上の兄、白虎帝翠磬は此方に一礼……あくまで礼儀的に一礼して通り去って行った。
印虎は礼を返す訳でも無く翠磬を横目で追う。
顔の向きも、表情も、何ひとつ動かさぬままに、眼球に浮かぶ金色の彩だけがスーッと標的を追っていくのだ。
そして顔を上げると翠磬とは反対の方向へ去って行った。
……顔を上げる瞬間、少しだけ、ほんの少しだけ、あの無口で無表情な印虎が、
口の端を上げて笑った気がした……―――
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