太陰之章 参

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「翠馨……キミ、ほんとに僕を怒らせるのが得意なんだね。その言葉、そっくりそのままお前に返してやりたい」 瞬耀は吐き捨てるように答えた。 瞬耀の火のような橙の瞳から憎悪に満ちた視線が放たれるの対して翠馨はクックッと喉を鳴らして笑った。 「ほぅ、なかなか物騒なことを仰る。でも悪いけど、私はそんなことを本気で考えてていたりはしないよ……兄上にはもっと元気で居てもらわないと」 「そいつはどうも……」 ――…この放蕩兄貴が居れば、良い風よけになる。……どうせ腹の中ではそんなことを考えているんだろう、翠馨。 空虚な笑顔に空虚な返答、そして潜み降り積もる憎悪。 此処ではそんなことの繰り返しばかりだ。 瞬耀は押し殺した声でそれだけ呟くと、もう何も言わなかった。 肩に掛かっていた翠馨の手を冷たく払いのけると、その胸を軽く突き飛ばして王宮の奥へと消えて行った。二人の朱雀派官吏は慌てて後を追う。 「やれやれ……兄上にまだ死なれて困るというのは本当だったんだけれど」 翠馨は自らの顎を一撫でしながら瞬耀達の後ろ姿を見送る。 「……ま、いずれ死んでもらうことになるけどねぇ」
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