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「…………」
高麗はその静かな諍いを、目を疑うように見つめていた。
瞬耀に翠馨が何を囁いたのか、また会話の細部は聞き取れなかったが、その場が凍り付いていくような酷く寒々しい圧迫した空気だけは樹上の高麗にも伝わっている。
たった今自分の中で築き上げていた快活で爽やかな瞬耀のイメージと、彼の弟と話している時の瞬耀の声音や雰囲気とが今一つ合致しない。
昨日自分を迎えてくれた時の優雅で穏やかな翠馨のイメージと、彼の兄に対する冗談にしては毒のありすぎる態度とが今一つ合致しない。
高麗が居ることを忘れて二人は話していたのだろうか、それとも高麗の手前であるが為にあれでも牽制して話していたつもりだったのだろうか、いずれにしても聞いてはいけないものを立ち聞きしてしまった気がした。
――…信じられない。
瞬耀や翠馨や麟家の者や官吏達が信じられないのでは、ない。
高麗にとっては彼等よりも、彼等に一瞬でも疑問を抱いた自分の勘こそが信じられなかったのだ。
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