太陰之章 参

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――…そういえば、瞬耀さんって人はこれをこの樹の枝に掛けて置いてくれ、って云ってたっけ。 高麗はその鬱々とした考えから抜け出すためにも、考えるのを一時中断して先程拾った服を瞬耀に云われた通り樹の枝に掛けることにした。 「い…よっ……と」 自分の登っている位置では高すぎると思ったのか、彼女は数十寸先に左手をつき、上半身を枝葉の方向に乗り出して、例の服を持ったもう片方の手を目一杯下方へと伸ばした。 「もう……ちょっ…と……」 あまりにもぎりぎりまで伸ばしている為に右手が若干震えている。 下から吹き上げる風に高麗の服も手にした服もパタパタとはためいた。 なんとか一段下の枝に黒の豪華な衣を掛けることに成功し、体勢をもとに戻そうとした、その時だった。 「うひゃぁっ!!」 ついていた左手がずるりと枝から滑り落ちた。
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