太陰之章 参

30/46
458人が本棚に入れています
本棚に追加
/523ページ
「しかし寛劉殿が丁度中庭へ出向いていたのは良かった。姫君様が一人きりで退屈されては忍びないですから」 猟影はその偶然の幸いを喜ぶようにそう言う。 しかし、実は寛劉本人はこの言葉に疑問を抱いていた。 ――…丁度って……俺に中庭に向かうように言ったのは猟影じゃねぇか? そう、寛劉が此処に来て樹から転落した高麗を救えたのも、猟影に教えられてのことだった。 寛劉が廊下を歩いていた時、廊下で玄武派官吏の一人と話していた猟影は彼に、自分は少し手が離せない為かわりに中庭へ向かってくれないかと依頼したのだ。 勿論その時には敵方の手前、中庭に姫神高麗がいる事すら伝えられていなかった。だが、今になって考えてみればあれは何か意図あって自分に高麗の相手をさせる為に依頼したことにちがいない……。 そう寛劉は思ったが、ここはなにか考えのあるらしい猟影を信頼し、一つ頷くだけに留めておいた。 「はい、寛劉さんが来てくれて、助かりました」 一方でそのような事情を知るべくもない高麗は二人の間で無邪気にニコニコと笑っている。
/523ページ

最初のコメントを投稿しよう!