太陰之章 参

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--- 「寛劉さんが助けてくれたんです……その、樹から落ちちゃって」 縁側に腰掛け数秒間庭を眺めた後で高麗は遠慮がちに話し始めた。 それは先ほど遮られた猟影の問いへの律儀な答えである。 どの樹、とは言わなかったが、猟影は中庭にある一番大きな樹……実際に高麗が登っていたその樹をじっと見つめている。豊かな緑をつけた大木の枝には、どこかで見たことのある黒の衣が掛けられていた。 「……あの衣を掛けようとなさってたんですか?」 猟影の問いに高麗は内心少し焦る。 ――…どうしよう……? 朱雀帝瞬耀に出会ったことや、瞬耀と翠馨の会話を立ち聞きしてしまったことをそのまま伝えた方が良いのだろうか……? 出来ることなら、不在の間にも自分の事を気遣ってくれていたらしいこの猟影という女性にきちんと報告してあげたかった。 だが、残念ながら朱雀帝派と白虎帝派は敵同士……そんな中で少しでも朱雀に好感をもったような話をしてはかえって相手を不快にさせてしまうかもしれない。 十二分に良くして貰っているのに他の派閥についてとやかく言うのは……非礼に当たるだろう。
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