前章-四神之序

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  彼……鏡華国第一皇子、朱雀帝・麟 瞬耀は自国の王宮の庭だというのに、こっそりと忍び込むような仕草で忙しなく辺りを見回しながら入って来る。 かさかさと低木をかき分けて侵入するとほっと溜め息を漏らした。 その落ち着きのない様子たるや、とてもではないが、この国を統べる「四神帝」の一人……ましてやその長子には見えない。 亡き父君である鏡華国先代帝・麟 鳳鳴は号を鳳凰帝という。 『四神帝』とは、その鳳凰帝の忘れ形見である四人の異母兄妹のことだ。 長子である瞬耀から順に、『朱雀帝』『白虎帝』『青龍帝』『玄武帝』との号を持つ。 空位の今は皇帝候補として四人が相並び立ち、国を四分割して治めていた。 瞬耀はその、鏡華国の南州一帯を治めており、四神帝の中でも最年長で次期皇帝の座に最も近い人間と言われている…… 筈、なのだが。   「……朝議さぼって無断で出掛けたのが見つかったらまた叱られちゃうもんね~」   建物の陰に隠れた瞬耀は粗末な服の帯を解くと、叢に隠してあった豪華な王族装束をだしてかさかさと着替えはじめる。 どうやら、この男、城の外へ出掛ける為にわざと質素な庶民服を揃えているらしい。 その慣れた手つきからも、彼がいかに“脱走慣れ”した人物であるかわかるというもの。  
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