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教頭先生が入ってきて全員起立をして頭を下げる。先生は予想通り異動を告げた。
しかしその異動先に皆、絶句した。
戦地で看護助手をするというのだ。日本軍のキャンプ地には一つもしくは二つの医療班がいるのだ。しかしそこは戦地、いつ襲撃されて全滅するかもしれない死と隣り合わせの場所だ。
だが拒むことはできない。
教頭は派遣されるまでの残り一週間を早い夏休みにすると言った。だが簡単にいえば一週間の間に親しい者に別れを告げておけと言うことだ。
二年生、三十人はおぼつかない足取りで工場をあとにした。友達にいう「またね」という言葉ですら重い。
家にはすでに異動命令状が届いていて何も言わなくても母親は知っていた。いつも通り台所で夕飯を作っている。芽衣は地下のシェルター内にある部屋に向かった。部屋とは言っても妹や弟と共用である。弟の尚はまだ訓練の時間で帰っていなかったが妹の五月は食料品の加工工場から帰っていて、疲れたのか熟睡している。
[続]
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