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「‥こんなことは‥誰にも聞かせられないけど‥‥それでも‥俺は‥国のためでなく芽衣と、芽衣と会うことができるこの場所を守るために‥戦うよ」
たしかに誰にも聞かせられない話である。でも芽衣にはなによりも価値のある言葉になった。
「‥‥この本は次に会った時に返すね」
生きて帰ってくるという目標があるのは心強かった。
お互い、必ず帰って来なければならない。
でもそういう義務感は嫌いではない。むしろ幸せだと感じていた。
翌日、駅に集合した二年生は人数が少なくなっていた。自殺したり逃亡したりして追われているらしい。
芽衣の見送りは母親しかいなかった。弟は早朝訓練に出かけたし、妹は従軍することすら知らない。大きくない肩かけカバンには昌志から借りた本も入っていた。読む時間があるかどうかはわからないがこれがあると落ち着く。一種の精神安定剤みたいなものだ。
駅の入り口で見送りともお別れ。国旗の小旗が激しく振られる。教頭が大声で「検討を祈る!私たちは君たちを応援しているぞ!」と叫ぶ。そんな声よりお前も来いよと言いたくなる。
[続]
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